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子猫とたんぽぽ

黄色い羽根の 天のつかいが 舞い降りて
魔法の杖を ちょん、とふれると
まあるいお屋根がはじけとび
まっ白い パラソルさした 妖精たちが
ひとり、またひとり
種をたずさえ 旅立っていく
天のつかいの おつげにしたがい
風にのって とべよ! かの地へ
見知らぬ地へ…


「あ。黄色いチョウチョさん、またおつかいにきた!」
子猫のメヌはそうさけぶなり、いそいでかけ寄っていきました。メヌエットはお散歩が大好きで、チョウチョが大好き。みつけるとすぐに追いかけていくのです。

「あぁ。チョウチョさんたら、こわしちゃった。しろいボールのお屋根を! わあい、あたし見てよっと。綿毛のお屋根にあなが空いて、たんぽぽの精たちが 出てくるところ…」

「おねぼうさんたちを、起こして、旅立たせるのが、天のつかいの、わたしの役目なのです」 
ふと、声がしました。それはチョウチョでした。黄色いチョウチョはそう言いながら、おひげの杖でちょこんと、たんぽぽの綿毛のお屋根をつついて、なにやら合図しました。すると、あわく白んだドームのお屋根が、ほんのすこしこわれました。

ドームのなかではたんぽぽの妖精たちが、なかでうとうと眠りこけていました。茶色いちいさな種を、ひとつずつ、足にむすびつけたまま。そして、そんなたがいの足を、ドームの芯で組み寄せて、眠りについていたのです。が、チョウチョのつかいの合図にうながされて、ひとりひとり、ゆっくりとのびをして、ようやく起きあがりました。

「ああ、いい気持ちでしたこと!」
「もう旅に出なくてはならないのね、わたしたち」

たんぽぽの精たちは口々にそうつぶやきながら、ふわふわの綿毛のパラソルを、そっとふるわせ、風を待ちました。そしてここちよい風をつかまえると、たちまちふわりと身をあずけ、しろいパラソルをくるくるまわしながら、外の世界へ飛びだすのでした。

さて、子猫のメヌは、たんぽぽの精が風にのって飛び立つ瞬間を、じっと待ち受けていました。おひげをぴくぴく、ふるわせながら。息をひそめ、今か今かと…。
と、綿毛のパラソルがあつまってできた、すきまだらけの天球の屋根が、もこもこっ、と動いたと思うと、そのすきまのひとつがわれて、眠そうなたんぽぽの精がひとり、あくびしながらふうわりと背のびをし、身をもたげました。―――― と、ふいにそよ風が吹いて、またたくまに彼女をさらっていきました。

「ああ、まってよ。まってよ!」
メヌはあわててたんぽぽのあとを追いかけました。 
「どなたか、声をかけまして?」 
たんぽぽの綿毛の精は、おちついたようすで、しばらく行ったところでパラソルをすぼめると、ようよう降り立ち、しずかにうしろを振り向きました。
「まあ。こねこちゃん! おおきなお口をあけて…。わたしを食べる気?」 
たんぽぽの精は、すこしおどろいてみせると、こうたしなめるように、またすこし身がまえるように、言いました。
「そうじゃない。いっしょに行きたいだけ」 
メヌは長いしっぽをくねらせ、こたえました。たしかにあのふわふわの部分をみると、おもわずおしりをふりふり、飛びかかりたくなりましたが、じっとこらえて、なんだかあとを追ってみたくなったのです。

「ねえ、どこいくの?」
「知らないわ…」 たんぽぽの精は、しろいパラソルをゆっくりまわしながら、すましていいました。

「知らないところへ、いくの?」
「というより、自分のいく場所を、知らないのだわ」

「ついてって、いい?」 メヌは首をかしげて聞きました。
「どこへいくかもわからないのに? とんでもない場所かもしれないのよ」
「でも、ついていかれるだけ、ついていく」
「そう。どうぞご自由に…」
たんぽぽは、そっけなく応えたと思うと、もうそよぐ風に乗ってふんわりと宙に舞いあがりました。
「あたしも、舞いあがる、舞いあがる!」
メヌはさけびながら、どうしてあんなに軽がると風に乗ることができるのか、ふしぎに思いました。 
「どうやったら、舞いあがれる?」 

「そうねぇ・・。」たんぽぽの精は、しばらく考えて、
「ふわふわしたものの力を借りて、体をもちあげてみては?そして風をつかまえること」 そうこたえました。
「そっか。じゃ、そういうの持ってくる。待ってて!」 メヌはそういうと、いちもくさんにお家へもどっていきました。

たんぽぽの精は首を振って、やれやれ…仕方なさそうに綿毛のパラソルをすぼめると、クローバーの茂みに身をよせながら、子猫の返るのを待ちました。 
メヌはじきに戻って来ました。おかしなものを持って。―― みると、それは耳かきでした。棒の先には、たんぽぽの綿毛によく似た、しろくてまるい、ふわふわの風船がついています。

「あなたときたら…」 たんぽぽの精は、かすかに首をふりながら、あきれ顔でつぶやきました。 
「そんな小さいものが、あんたの重いからだをもちあげることができて? あなたのほうが、その白いお羽根より、よっぽど重いのじゃない?」 
「そうだなぁ…。」 
いいながらもメヌは、あきらめ切れずに、耳かきをしっぽの先で持ち上げながら、ピョンピョン飛び跳ねていきました。そして振り返ってさけびました。
「じゃ、それよりもっと大きなものを、持ってくるまで待っててね」
「しかたがないわね…」 肩をすくめて、たんぽぽの精は、いいました。メヌはいちもくさんに飛んでいきました。そしてまもなく戻って来ました。
こんどは、すきとおったビニール傘を、しっぽの先にまきつけながら、くるくる回してきたのです。
「コレ、まわるのよ。あんたのとおんなじ! 風だってはらむんだから!」
「そう。飛んでみたら? どこまで持ちあがるか…」 
たんぽぽの精が、くすくす笑ってけしかけました。メヌはけげんな顔をしながらも、長いしっぽの先に傘の柄をからませ、なんどもなんども地面をけって、飛びあがってはみましたけれど、ほんのかすかに持ち上がるだけで、すぐに着地してしまうのでした。メヌは、なんだかがっかりしました。

「ねぇ?思うのだけど、わたしについてくるのに、わたしとおなじように、浮かびあがらなければならないかしら…?」 
たんぽぽの精は、なだめるようなやさしい声で、こうつぶやきました。
「ふわふわのパラソルで風にのって行くことが、そんなにだいじ?」 
「ううん…。そうか、まねっこしなくてもいいのかな?」 
「こねこちゃん ―― そんなふうに自分も浮かびながら、私のあとをついてきて、ぬるぬるした沼地に降りたり、深い湖の上をさまよったり、とげだらけのイバラのトンネルをぬって走ったり、どこかのエントツのなかに落ちて、そのままひからびてしまったりしてもいいの?」
「え…?」 
メヌは、そのひとことに、あっけにとられて、だまってしまいました。
「風にのって、浮かんでいくのは、たしかにたのしいけれど、自分で着地するところを選べないのよ。さっきもいったけれど…それでもいいの?もちろん、悪いところにばかり行くわけではないけれど。でも運がよくなければ、わたしたち綿毛の精は、自分の運命(さだめ)をあきらめなければならないのよ」

……メヌはしばらくして、ようやく口を開きました。
「それじゃあたし、ただついて行くことにする! それでもし、あんたがへんなとこに落ちたら、あんたを助けてあげる。ほかの場所へうつしてあげるわ。だからいっしょに連れてってよ…。あたし、ふわふわ浮かんで風にのって、気持ちよさそうにどこでも自由に飛んでいけるのを、うらやましがっていたけど、ほんというとよく考えてなかった。あんたたちが自分の場所を、自分で決められないってこと。あたしなんか、お家でお昼寝するときも、お日さまの光の移ってくほうへ、あたしもいっしょに移っていって、気ままに居場所を変えるけど、あんたたちときたら、そうはいかないのね…」

「そうねぇ」 たんぽぽの精も、お空をみあげて言いました。
「もしむきを変えられるとしても、まあ、たまたまその時風が吹いて、私の体が運よくまた宙を舞ったときだけね…。それももし、風が止んで、もうくたびれたら、それでおしまい!…でも、あなたがいっしょに来てくれたら、すこしは心強いわ? もし私が悲しい場所に舞い降りたら、そっと運んでどこかへ移してちょうだいな」
「うん、きっと」 
メヌは元気にうなずきました。しっぽをピン、と持ち上げて。
「あたし、もうふわふわ、浮かばなくたっていいや…。とにかくあんたのあとをついていく!」

こうして子猫とたんぽぽの綿毛の精は、ふうわりふわり、たったかたったか、風の向くまま、風景のなかを進んでいきました。野原をかけまわり、土手をのぼり、こどもたちの野球場をこえ、川べりへ降りていきました。
やにわに風が吹きあがり、たんぽぽの精の背中をふっとさらっていきました。たんぽぽの綿毛のからだは、宙に舞い、川の方へとどんどん落ちていきます。
「あぁーっ。ちょっと待ってよ。どこへいくの」メヌはさけびました。そしてあわてて後ろ足のばねをいっぱいに使って飛び上がると、前足でひっしにたんぽぽの綿毛をつかみました。降りたところをたしかめると、メヌのからだはぎりぎりで岸辺のはしに着地していました。
「あぁあぶなかった」メヌはほっとしました。
「ありがとう、たすかったわ。川の中に落ちたら、花を咲かせられなかったものね」たんぽぽはほっとしてお礼をいいました。

さてそれからふたりは、風にまかせて土手をまたのぼり、下の畑へぐんぐん降りて、田畑のさかいのちいさな川を、ぶじに飛び越え、なんだかさっぷうけいな広場に出ました。
いったいここは、何なのでしょう?広場はあたり一面、金属をもやすような、おかしなにおいがたちこめていて、向こうには青白いけむりをもやもやはきだす煙突の姿がありました。あれた広場のまんなかには、空き缶がうず高くつまれていました。
ザザザー…またしても風が吹いて、たんぽぽの綿毛の背中をいきなりさらっていきました。そしてきゅうにやんだとおもうと、まあなんとしたことでしょう。空き缶のお山のてっぺんへ、たんぽぽをおきざりにしていったのです。
「ああもぅ、だめだよ。そんなところ」メヌはあわてて追いかけると、がちゃがちゃ空き缶の山をかけのぼり、ときどきずり落ちそうになりながら、ようようてっぺんへたどりつきました。そうして、つぎの風が吹いてたんぽぽをさらっていく前に、あわててたんぽぽの綿毛をぱくりと口にくわえました。
そしてタッタカタッタカ、空き缶の山をけとばしながらいっきにかけおりると、広場の奥の砂場へととっしんしていきました。そして、砂場のまん中までくると、ぺっと綿毛をはき出しました。
「しばらくここで、からだをかわかしてね」メヌがいいました。
「ありがとう、はこんでくれて。あんなさびついた缶のお山へ落ちても、かわいいお花を咲かせてあげられなかったわ」
たんぽぽの精がまたお礼をいいました。
「ほんとに、どこへ落ちていくかわからないよね」メヌは砂の上でほっと一息つきながら、ひたいのあせをぬぐいました。
「ところで、ここはどこかしら…」たんぽぽの精が、せなかに日を浴びながら、すこしねむたげにいいました。
「さっきより、へんなにおいはしないね。ここがお砂場だから、もしかして公園じゃない?」
ふと向こうを見ると、だれもいないブランコが、かすかにゆれています。だれかが降りたばかりのようです。
「あれ。あそこにゾウさんのすべり台がある!」メヌがさけびました。メヌの大好きなものです。さけびおわるかおわらぬうち、メヌはわき目もふらず、一気にかけ出しました。たんぽぽの綿毛も、あわててメヌのしっぽにつかまりました。
メヌがすべり台をかけ上がると、たんぽぽの綿毛はメヌのしっぽにもぐりこみ、一緒にあがりました。そしてメヌがすべり降りるときには、なんとかうまいぐあいに風にのり、しっぽをはなれ、ふんわり浮かんで追いかけました。メヌは何べんとなくそれをくり返しました。
たんぽぽのほうは、そのたびに、メヌのいきおいに舞いあげられ、いつしか はぁはぁ息を切らしていました。
「あぁつかれた。あなたといると、はらはらするわ…ときどきおしつぶされそうになるし。もう…くたびれたわ」たんぽぽの精はうちしおれていいました。


やがてふたりは公園をはなれ、畑をぬけて、うすぐらい森のなかへ入っていきました。あたりが暗くなってくると、さすがにこころぼそくなり、なんだかどっとつかれてきました。
うっそうとした茂みのなかに、かしいだ、みすぼらしい一軒のコテージが、忘れ去られたように立っていました。そのうす暗い、じめじめした軒下に、たんぽぽの綿毛の精がふらりと舞い落ちた時、メヌの心はかすかにわななきました。うらみちのほうから一匹のおおきな猟犬が、はげしく吠えたてるのが聞こえてきました。犬の声はそれからもうずっととまりません。じぶんの声が木立へとこだまするのがきこえると、そのひびきにさそわれて、いっそうはげしく吠えつづけます。
メヌは耳をおおいたくなりましたけれど、たんぽぽはもう、暗くしめったその日陰に、じっとうずくまったままになりました。すっかりつかれはてているのです。
メヌは泣きたくなりました。無茶をいってついて来たのを、こうかいしました。が、ふと思い立つと、勇気をふるって、吠えたてる犬のほうをいっしょうけんめい、にらみつけながら、ぐったりしたたんぽぽの綿毛を両手ですくって、自分のお口に入れました。
「もしもできるなら、生まれたところへかえりたいわ…」メヌのお口の中で、たんぽぽの精がそっとつぶやく声が、きこえたような気がします。
「はらっぱへ行こう」
メヌはおヒゲをピンピンにはりつめながら、全速力で森をぬけ、田んぼをぬけ、公園をぬけ、土手を横切って、やがてなつかしい原っぱにたどりつきました―――― はじめにふたりでおしゃべりをかわした、あのあかるい原っぱに。 

草たちが、ざわざわなみのようにゆらめいています。草のなみは、おひさまの光を体いっぱいに浴びて、においたつような目に見えない湯気をゆっくりとたちのぼらせては、たんぽぽのじゅうたんであしもとをすっかり黄色くそめながら、とおくまでつづいていました。

メヌは、そのなかでもいっとうまぶしい黄色い光のまんなかに、小さな小さなあなをほると、綿毛の精をそっとうずめて、かえりました。

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