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クモの仕立て屋
雨あがりには この網も
いまにも こぼれ落ちそうな
ビーズの玉が あちこちに
きらめきゆれて おしゃべりします
風の吹く日は この網も
澄みわたる 天の吐息(といき)に なぶられて
たわむふねの帆 さながらに
あおい眠りに つくのです
月の夜には この網も
銀糸ののれん たゆたわせ
わたすげの穂を からませて
空へと昇ってゆくのです

うつくしい レース編み
わたしが 仕立ててあげましょう
さあさあ、クモの仕立て屋でござい。
なんでも注文 たまわります

           * * *

ある雨あがり。森のあちこちから、小鳥たちのきもちのよい声が、朝もやの中にひびいていました。
ズィンズィン、ズィン、小さなハープをつまびく音。シィー、キィー、とおくでぶらんこのきしむ音。いろんなさえずりがこだましては、ざわざわとこずえを通りすぎる風なかに消えていきました。
と思うと、けぶたい木もれ日が射(さ)すような、ほんのかすかなさえずりが、いつしかまた、どこからともなく聞こえてくるのでした。
そんなしっとりとしずかな、森の朝のことでした。

一羽のヒガラが、ツピンツピン…、いまにも消え入りそうな歌声でさえずりながら、木々のあいだを飛んでいました。シデやニレの木の、それはそれはうっそうとしげるなかを。
と、ちょうどそこだけ、まあるくくりぬかれた劇場(げきじょう)のように、ぽかんと空いた草っ原に出くわしました。
草っ原のまわりを、もも色をしたシモツケソウのシャンデリアが、ぐるり とりかこんでいました。
「わぁい。おひさまのスポットが当たってる。あかるくていい気持ち!」
ヒガラはそう言うと、ほんのちょっと、羽根を休めたくなりました。
そこで、まあるい劇場のまん中の、まあるい舞台(ぶたい)のすそに、まい降りることにしました。
と、ふと目の前を、きらきら、きらり。何かがゆらめいて、ヒガラにわらいかけました。ヒガラはおもわず、空中でブレーキをかけました。
おお、あぶない。…そうつぶやくと、ヒガラは停止飛行(ていしひこう)しながら、あたりを見わたしました。
と、なにやらたくさんのビーズ玉が、小人らのおどるダンスのようにうちふるえては、あちこちでかがやいています。
よくみると、透きとおったしまもようの傘(かさ)にもみえる、じつにおおきなレース編みが、行く手をはばんでいるのでした。
ふわふわしたそのレース編みは、たて糸とよこ糸のつなぎ目に、雨粒(あまつぶ)のビーズをおいて、ときおりたのしげに、キラキラと光らせています。
「やあ、びっくりした! もうすこしで、ひっかかるところだった」
あわてて羽根をたたみながら、もういちどじっくり、ヒガラがあたりを見わたしますと、まあるい舞台の幕(まく)さながらに、やんわりと透(す)けたその編みものは、エビヅルのつるべづたいに、そっとかかっておりました。
編みもののすそは、エビヅルの穂の鉤穴(かぎあな)に、ひとつひとつ、きちょうめんに通してありました。
レース編みのそこここに光る、ビーズの玉はどれも、ちいさな虹(にじ)の子を、やどしておりました。
虹の子たちは、ささやくようなそよ風に吹かれるたび、すばしこく色を変えながら、あちこちでうちふるえています。
「とってもきれい!」
ヒガラがそうさえずりますと、すぐさまたいそう気をよくした声が、どこからか聞こえてきました。

「クモの仕立て屋でござい。なんでも注文たまわります」

「こんにちは。この幕(まく)は仕立て屋さんの、のれんだったんですね。あなたはレース編みを、編むのですか?」
ヒガラこうがたずねますと、
「ハンモックでも、手さげ網(あみ)でも、なんでもござれ!」
調子のよい声がかえってきました。
「それじゃぼく、ビーズの玉をところどころにちりばめた、透きとおった冠(かんむり)がほしいな」
「冠ですって! それはめずらしいご注文ですこと」
おどろいた声がしたと思うと、エビヅルのれんの下の、うっそうとからまるツヅラフジのかきねの陰へと、ツウと一本のか細い糸が降りているのが見えました。その糸先から、仕立て屋さんが、ようやく姿をあらわしました。つむざおにしていたツヅラフジの葉棘(とげ)と葉棘の間に、ひょっこりと、ちいさな顔をのぞかせたのです。
「やあ」
ヒガラがわらっていいました。
「そうなんです。ずっとほしいと思ってました! 光の輪っかに、かぶせる冠――。森の出口の、あおいみずうみのほとりで、お空の光にかざしてみたいの。ぼくのかなでる、ちいさなちいさな銀の音をそえてね」
「まあ。それはすばらしいこと! それで、お仕立てはいつまでに?」
クモは、さっそくたずねました。
「じゃあ…あした!」
ヒガラはすぐさまこたえました。
「お時間は?」
「時間は、そうですねぇ…あさはやくに」
「ええと…明日の、朝はやく、と。まぁたいへんですこと」
クモの仕立て屋は、あたまをかきかき、ツヅラフジのまるい葉っぱでメモをとりました。
「しょうちしました。では、最後のしあげをほどこしおわりましたら、そこのまあるい庭先に咲いている、シャジンの花をゆらして、合図の鐘をならしますので、お品を引きとりにおいでください」
「わかりました。それじゃあよろしく」
そういって、ヒガラは蝶ネクタイをむすびなおすと、ツピンツピン、さえずりながら、朝もやのぬいわたる木立のかなたへと、すばしこく飛び去っていきました。

お客とわかれると、仕立て屋さんは、さっそく頭のなかに図柄(ずがら)をえがいて、いろいろと考えはじめました。そうしてなにやらひとりごちながら、仕事場にもどりますと、すぐに仕事にとりかかりました。
エビヅルのつるべの先から、ツウ…と降りて、下をとおる、ツヅラフジのつむに足場をひとつ、つくっては、たて糸を張り、めまぐるしくぐるぐる回っては、よこ糸を張り…。ところどころは、ひっぱったり、くるくるまるめたりなど、むずかしい編み方をしなければならない場所ももちろんありました。…けれどもたんねんに、それはそれは精を出して、息をもつかず、仕事しました。

じき、お昼になろうとしていました。クモは、わたあめのようにふわふわの冠をひとつ、やっとのことで編み上げますと、シャジンの花をツリンツリン鳴らしました。
しばらくすると、シデの木の梢のむこうから、ヒガラがむれをなして降りて来ました。
朝とはちがい、こんどは仲間をつれてやって来たのです。
「わぁきれい! ヤマアジサイの花を台に、つくってくれたんだ」
今朝やって来たヒガラが、さえずりました。
「なるほど。この冠のとがったてっぺんに、おおきなツユをひとつずつのせてくれたんですね」
別のヒガラも、たいそう感心したように、右に左に、首をかしげて言いました。
「ええ。でも風が吹くと乾いてしまいますから、お気をつけくださいね」
クモの仕立て屋が言いました。
「水晶(すいしょう)のようにかがやいてるね」
「ほんとうだ。あの虹の光をうけたら、どんなにきれいだろう」
他のヒガラもくちぐちにさけびました。
「ありがとう! クモの仕立て屋さん」
ヒガラたちはいっせいにお礼を言いました。
そうして、冠をこわさないよう、みんなでそっと飛び立つと、ツピンツピンツピン、お礼を言ってかえりました。



さて――。午後になると、ときおりふっと舞いあがるような、つよい風が吹きはじめました。

クモのレース編みにたわむれていたビーズたちも、みるみるうちにかわくと、数をへらしていきました。

レース編みは、風がふくたび、エビヅルのつるべの軒(のき)に巻きあがっては、はたはたとたわんで揺れています。意外(いがい)に丈夫な網の目が、たてによこに、トランポリンのネットよろしく、はずんでは しなっています。

てんとう虫が、ぶんぶん、ぶん。おおきなニレの木のウロのむこうから、森の中にぽっかり空いた、ひなたの広場へ、散歩にやって来ました。
ふいに、透きとおった、おおきなおおきなレース編みが、かれの行く手をはばみました。

「おっと、あぶない、あぶない! もうちょっとでひっかかるところだった」
てんとう虫はあわてて翅(はね)をひっこめると、どなりました。
「いったいだれさ? こんなはた迷惑のところに、べたべたした編み物を張っているのは?」
すると、どこからか声がしました。

「クモの仕立て屋でござい。なんでも注文たまわります」

「仕立て屋? なんだ、そうだったのか。…な、なに。仕立て屋だって! やあ、そいつはいいことを聞いた」
てんとう虫は、急に機嫌をなおすと、元気よく宙がえりしました。

「それじゃあ、ひとつ注文したいんだけど」
てんとう虫は、せっかちに言いました。
「あのさ、ぼくら仲間は、おおきな網がほしいの。みんなでお空にむかっておひさまの光をすくいとる、透きとおった光の網を」
「光の網…」
クモの仕立て屋がくりかえしました。
「そう。たまにふしぎな光が通るでしょう? 林のなかにぽっかりあいた、あのあおいみずうみに射し込むふしぎな光。ハンの木の柱のあいだから、あたりいちめんに投げかける光さ。あいつを、ぼくたちみんなでうまい具合にうけとめられる、じょうぶな網を、ひとつ編んでもらえないかな。使い古しじゃない、新品のやつ!」
てんとう虫は、たいそうはしゃいでおりました。
「しょうちしました。それで、お仕立てはいつまでに?」
「もちろん、そのすてきな光の通るときまでにさ!」 
てんとう虫は、いばってこたえました。
「ええと、…すてきな光の通るときまで…。それはいったい、いつごろでしょう?」
「そうですねえ…きっと、明日の朝はやくじゃないかな」
「明日の朝はやく…と」
クモの仕立て屋は、ツヅラフジのまるい葉っぱで、しっかりメモをとりました。
「できそうですか?」
「ええもちろん!」クモはしっかりとこたえました。
「では、最後のしあげをほどこしおわりましたら、あのまあるい庭先の、シャジンの花をゆらして、鐘をならしますので、その合図をきいたら、お品を引きとりにおいでくださいな!」
「よろしくおねがいします」
てんとう虫はよろこんで、またもや宙がえりすると、そそくさと帰っていきました。

クモの仕立て屋は、さっそく頭のなかで、つぎの図柄(ずがら)をえがいて、いろいろと考えはじめました。そうして、ほどなくつぎの仕事にとりかかりました。
ツウ…と降り、足場をつくってはたて糸を張り、めまぐるしくぐるぐる回ってはよこ糸を張り。底のほうはことに、ふだん自分のくせでは編まないような、じょうぶでむずかしい編み方をしなければならない場所もありました。…けれども息もつかずいっしょうけんめい仕事しました。
夕方になるころ、ようやくおおきなすくい網を編み上げますと、シャジンの花をツリンツリン、鳴らしました。
と、てんとう虫の坊やが、どこからともなく降りてきました。こんどは仲間をたくさん、連れています。
「もうできたの。わぁすごい!」
昼間のてんとう虫がさけびました。
「ほんとうだ。ところどころに、こまかいななめのししゅうがしてあって、きれいだね」「ししゅうのところは、ツリバナのちっちゃい花を、ひとつひとつ縫(ぬ)い込んであるよ」
「とっても気に入りました。どうもありがとう!」
昼間のてんとう虫が先頭にたって言いますと、ほかのてんとう虫たちも、くるんくるん、宙返りしながら、みんなしてはしゃいではお礼を言いました。
そうして全員で、おおきな網をいっしょうけんめいもちあげると、ブブ〜ン、といっせいにアクセルをふんで、飛んでいきました。



夜になりました。
「さて。店じまい」
こう言ってクモの仕立て屋は、パンパンと前あしをたたくと、軒にたらしたレース編みの下半分を巻きあげ、それはそれはてぎわよくのれんをたたみました。
月の光がこうこうと、まあるい庭を照らしつけています。
そのスポットライトのなかを、ふうわり、ふわり。わたすげの精たちが、夜風にのって舞い降りてきました。沼(ぬま)のほとりの、白いまほう使いの箒(ほうき)みたいなおうちから旅だって、森まで遊びに来たのです。
「まあ。ここはなんて明るいんでしょう!」
「ほんとうに。くらい森のなか、ここにだけ、まるで目にみえない明かりとり窓がついているみたい」
などとくちぐちにおしゃべりしています。
と、そのうちひとりが言いました。
「あれはなに?」
わたすげの精たちは、それからみんなで、半月みたいに巻きあがった、クモの編み物をみおろすと、すぐさまそこへ降りていき、あちこち、思い思いの場所にとまりました。
「こんなところに、いいハンモックがあるわ」
ひとりが頭をもたせかけました。
「ちがうわ。これはショールよ」
べつのひとりがいいました。
わたすげの精たちは宙を舞いながら、そんなふうにくちぐちにおしゃべりしては、白いスカートをゆらして、ダンスしました。
羽根でできたかぼそい純白のスカートは、舞いあがったり降りたりしては、青銀色の月のあかるみに、ぼんやりと浮かびあがりました。
そのようすを見ていたクモの仕立て屋は、やぶのかげから思わずうっとりと見入っておりましたが、すぐに言いました。

「クモの仕立て屋でござい。何でも注文たまわります」

「まあ、こんばんは」
わたすげの精のひとりが、あいさつをしました。
仕立て屋は言いました。
「わたくしの店先ののれんに、あなたがたのうつくしい綿毛のかざりをほどこしてくださり、ありがとうございます。うつくしい作品になりますわ」
「ええ。よい休憩所にもなりますわ。じつに気に入りました」
別のわたすげの精が、ほほえみながら言いました。
「いっそこれをそのまま、いただきたいほどですわ。でも、せっかくですから、どうせなら、もすこしアレンジをしてくださるかしら。こうしたショールのようなのではなく、もっと、そう…つばさのような形に?」
「もちろん、できますとも!」
クモの仕立て屋はむねをはってこたえました。
「つばさにするには、そうですね…もうちょっとかたちをずらして、ただほんのすこし斜めにわたる細工を、いくつかほどこすだけで、すみますわ。プレゼントですか」
「ええ。とはいっても、はっきりとした相手にではないのですけれど」
すこし太ったわたすげの精が、肩をそびやかして言いました。
「まえまえから思っていたのですけれど…ぜひほしいんですの。あおいみずうみのほとりで、おひさまの光にあてがうとうつくしくかがやく、わたしたちの綿毛でできた、天のつばさのようなのを!」
「まあ。ペガサスのようなものですわね。…それで、お仕立てはいつまでに?」
「そう…はっきりとはわかりませんが、おそらく明日の朝ですわ」
「あ、明日の朝ですって! またしても。まぁたいへん。今日はなんていそがしい日ですこと!」
メモをとるのも忘れて、仕立て屋さんはさけびました。
「またしても、ですって。――というと、ほかにもいろいろ、ありましたのね」
「いったいどんな注文ですの?」
わたすげの精たちは、くちぐちにたずねました。

「ええと…。朝のうちには、あおいみずうみのほとりでおひさまの光にかぶせる冠。午後には、あおいみずうみのほとりでおひさまの光をうけとめる網。そうして夜には、いまのご注文(ちゅうもん)。あおいみずうみのほとりでおひさまの光にあてがう、あなたがたの綿毛のつばさです」
仕立て屋さんは、ちょっとじまんげに言いました。
「まぁ! なんておいそがしいこと」
わたすげの精たちは、月あかりのもとでいっせいに笑い声をあげました。
「それに、みんな考えることとては、いっしょですわ?」
「それほどみんなが、あおいみずうみのほとりで、すてきな朝の光の来るのを待ちわびていたんですのね」
「きっと、クモさんの糸が、朝の光をきれいに透かして、かがやくことうけあいなのを、みなが知っているというわけね」
クモの仕立て屋は、それを聞くと、なんだかうれしくって仕方ありませんでした。そうしてすこしうきうきしながら、言いました。
「では、ざいりょうになるわたくしどもの綿毛を、わたしていきますわ。ちょっとおまちくださいな」
わたすげの精たちはいうと、空中に舞いあがり、みんなしていっせいにこしをふりふり、ダンスしはじめました。すると、みなのまっ白い体から、月の光にかがやく綿毛が、ふわりふわり、おびただしく地面に落ちてきました。いちばんふとったわたすげの精からは、とくにはげしく舞い落ちてきました。
「まあなんてすばらしい。さあさあ、もうこのくらいあれば十分ですわ。」仕立て屋はそうさけぶと、みなのダンスをとめました。
わたすげの精たちはつぎつぎと地面に降りてきました。みな、さっきよりだいぶやせています。
仕立て屋さんは、こういいました。
「では、最後のしあげをほどこしおわりましたら、シャジンの花の鐘を鳴らして合図をしますので、お品を引きとりにおいでください」
「わかりました。おねがいしますわ。ありがとう仕立て屋さん」
わたすげの精たちは、ふたたび空中に舞い上がり、みんなしてひとつにあつまると、まほうの箒(ほうき)みたいな白い綿毛のスカートを、みんなでふわふわゆらしながら、東の夜空へと消えていきました。


「さて、と…」クモの仕立て屋はみなを見送ると、ひとりごちました。―
「このさいごのご注文は、店さきにわたしてある、クモ糸ののれんと同じ型紙(かたがみ)に、すこし手をくわえてつばさをかたどるおしごとだわ」
そう言って、クモの仕立て屋は、さっそく足もとのつるべをつたいのぼりました。そうして、やがてツツウ…とエビヅルの空中ブランコからまっすぐにおりると、こんどはすこしはなれたツヅラフジのロープへとななめに降りて、葉棘(とげ)のつむざおにあたらしい足場をつくりました。
それから、軸糸(じくいと)をめぐらし、弧(こ)を描いてはほんのすこし、ななめにずらし、また弧を描いてはななめにずらしていきました。
みるみるうちに、やわらかい曲線をえがく、透きとおったつばさが、できあがっていきます。
つばさの先のほうには、ちょっと手の込んだ細工を、クモはほどこしました。よけいな糸をつまみあわせて、しだいに細くしていくのでした。
そうしてすっかり糸をつむぎおわりますと、クモの仕立て屋さんは、こんどはこのクモ糸のつばさの上に、わたすげの精たちののこしていった、うつくしいかぼそい綿毛を、ひとつひとつていねいに置いていきました。そうして綿毛の先を、こっそりとクモ糸のあちこちに編み込んでいくのです。この庭にふうわりと腰をおろしていたかのじょたちの、うつくしい光景を思い浮かべては、クモの仕立て屋はほほえんでいました。
はてさて。けっきょく今度も、仕立て屋さんは息もつかずいっしょうけんめい、仕事しました。
そうしてよなべして、この日に受けたさいごの注文も、とうとう無事におわらせたのでした。
ふぅ…汗をぬぐいながら、クモはまた、シャジンの鐘をツリンツリンならしました。
しばらくすると、わたすげの精たちが、ふうわりふわり、あかつきを背に、まるい広場に舞い降りてきました。
「ごくろうさま。まあなんと、すばらしいわ!」
「ほんとうに、ペガサスのようだわね」
「でもやっぱり、ここちよいハンモックのようですわ。ここでずっと、眠りにつきたいくらい」
わたすげたちは、くちぐちにさけんではお礼を言って、クモの仕立て屋をねぎらってくれました。
そうして、みんなして集まると、まっ白な箒(ほうき)にのって、夜明けまぢかいうっすらとした月明かりの中、うきうきと舞い立っていきました。

* * *

あけがたのこと。
林のなかにぽっかりあいた、真空の鏡(かがみ)のようなあおい湖のほとり。
ヒガラの群れ、てんとう虫たち、そしてわたすげの精らが、めいめいの贈り物をもって、岸辺にあつまっていました。それは、ツヅラフジの茎とつるべの、たてよこななめに、ごちゃごちゃとおいしげる、やぶのマストの辺りでした。
みなはくちぐちに、自分たちの編み物を、じまんしあっていました。

あおい空には、うっすらと白い絵の具のにじんだような膜が、かかっています。

おひさまはまだ、すっかり姿をあらわしてはいません。
うすらいだ膜のむこうに、透けはじめたおひさまが、ついに湖のま上にさしかかった、その時です…。

ツピンツピン、チチ…
かぼそい銀いろのさえずりが、森にこだましますと、この瞬間を待ち受けていたヒガラの群れが、空をめざして飛びたちました。レース編みは、みずうみの真上の宙をただよいはじめました。

と、ふいに膜のはれ間から、色とりどりの小さな虹の水玉がはじけ、雨露(あまつゆ)となってまっさおなみずうみに落ちてきました。と、お空のてっぺんには、天の輪っかがぽっかりと浮かびあがりました。
そう、ヒガラたちがかかげた、クモ糸の冠のむこうがわにです…。
それはまあ、何という夢のような光景でしょう。
ヒガラたちが舞いつつあおぐ、クモ糸の冠を、透きとおった王様よろしく、頭上にいただいてほほえんでいる、こうごうしい天の輪っかは、ちょうどこの森の反対がわ、あおいみずうみの向こう岸にそびえたつ、こわれかかった寺院(じいん)の塔(とう)のとんがり屋根に、いまはぴったりかぶさって、やわらかに光かがやいているのでした。
「ほぉー…」
森のあちこちから、おもわず木もれ日のようなため息がもれました。
と、もうまたたく間に、こんどは膜の裂(さ)け目から、てんとう虫たちのかかげる、透きとおった光の網が、ぱっと放たれたではありませんか。
光の網は、それはそれはまぶしげに、空いっぱいにひろがったと思うと、たちまち七色の光のかげを、うっとりと静まりかえった湖の鏡のあちらこちらに、反射させはじめたのです。
きらきらと輝きながらも、光の網は、あおくけぶる辺り一帯をそっと包んで、夢のようにたわむれはじめました。スローモーションでひろがる日射しの噴水(ふんすい)さながらに…。
そうして、あおい日射しの噴水は、湖のなかにゆっくり、ゆっくりと、吸い込まれていきました。――――

それから、どれくらい時間がたったでしょう? 
森のみんなが、しばらくの間うっとりとしておりますと、天の輪っかにくるまれたふしぎな光のおひさまは、いつしか、あおい劇場をささえる左右の円柱(えんちゅう)よろしくそそりたつ、ハンの木の合間にやってきました。
おひさまは、花火のようにチラチラと、ハンの木の円柱の間をぬいはじめました。
そうして、木立にかざした、わたすげの精たちのたなびかせる、天のつばさのスクリーンに、すこしずつ、すこしずつ、近づいていきました。

みなは、息をのんでそれをじっと見守りました。――――

今、おひさまは、いつしか天のつばさのスクリーンの、ちょうど真ん中に届こうとしていました…。
みなの心は高なりました…。
とその時、ヒガラたちの冠(かんむり)をそのてっぺんにいただいて、おひさまはこれまでにないほど、それはそれはキラキラと、かがやきはじめたのでした。

「やあ。おひさまが笑ってる」
「よろこんでくれているんだね」
「あれは天からの贈(おく)り物だ」
みなはくちぐちに言いました。

その間にも、その冠をかぶったおひさまをくるむ、天の輪っかを降りてくる、長いながい光芒(こうぼう)の下には、てんとう虫たちの投げかけた光の網が、じっくりとまちかまえておりました。
おひさまは、青白い光をやんわりとたゆたわせながら、純白のあわのような光の網のなかに、虹の七色をゆっくりと波打たせました。
それはまるで、船の帆のようにぱたぱたと風をはらみながら、もやの中にゆらめき立ちました。
帆のむこうのおひさまは、ふるえる光の影を、あおいみずうみの鏡舞台(かがみぶたい)に、きらきらと映しだしていました…。

この光景を目にした森の住人たちは、ふたたび思わずどよめきました。そして、それはもううれしそうに、たがいにダンスし合ってよろこびました。

みんなが天の光にかざした森のおくりものは、こうしてお空のほんのつかの間の、透きとおった出来事になったのでした。――――

まるい広場のおまつりのあと、森ぢゅうにひとしきり、ほそい雨がふりそそぎました。


     * * *

その、翌朝のこと。
あおいみずうみのほとりをつたう森の小径(こみち)を、ひとりのおじいさんとぼうやが、通りかかりました。
この森のまえを通るたび、おじいさんはいつも、ぼうやに言うのでした。五十年前、この森は大火事にあったのだよ。よくもまぁ、こうもうっそうと草木の生い茂る森に、生まれ変わったものじゃ、と。
おじいさんは今朝も、ここを通ると、ふと立ち止まり、ひとりごちました。
「どうやって、火はおさまったの?」
ぼうやがききました。
「とつぜん、空にふしぎな膜がかかって、雨が降ってきたのじゃよ…それから大雨になってのう。あのあおい湖があふれんばかりに、降ったものだった。――今思うと、あの雨は、きっと救いの雨だったのじゃろう」
ふたりは、あたりを見まわしました。

「おじいさん、みてみて。あれはなに?」
ぼうやはいいながら、森の入口のやぶを指さして、おじいさんのそでをひっぱりました。
「どれじゃな? ああ、あのハンノキの木立のむこうか」
おじいさんが言いました。
それはツヅラフジのつるべで、たいそうごちゃごちゃとからみ合った、やぶでした。
手前には、ねこじゃらしの穂が風にそっとなびいては、こんにちは、とおじぎをしています。
そのむこうから、ももいろをしたシモツケソウのシャンデリアが、いらっしゃいませ、ゆらゆらゆれては、あいさつしていました。
あおいみずうみをはさんだ、やぶの向こう岸には、古びた寺院の塔のとんがり屋根が、雨あがりの朝日をあびて、しずかにたたずんでいました。

「はて、あのやぶにかかる、もやもやとしたふしぎなものは、なんじゃろうの」
おじいさんは、長いひげのはえたあごをさすりながら、言いました。
「ほんと。まるで、むかしむかしのお船の帆みたいに、風にたわんでるよ!」
ぼうやも言いました。
「おおそうじゃ。ひからびた帆かけ船のようじゃ。いやはや。あれはきっと、クモの巣だ。朝露にぬれて、それはそれはきれいじゃのう」
「虹のビーズだ。ほら、ひかっているよ! あっちでもこっちでも」
ふたりはおもわず、そのクモの巣の舞台装置(ぶたいそうち)にそっと近づいていきました。
ツヅラフジのやぶは、なるほど遠いむかしの物語にとじこめられた、ひしゃげたマストのようでした。
「クモの網の帆のうえを、ちいさい虹の玉が、糸をつたって遊んでるね」
「光の精がいそがしそうに行き交(か)っておるのう」
「なんだか、おまつりのあとみたいだね」
ぼうやがわらって言いました。
「きっと森の生きものたちがあつまってクモの糸で遊んだあと、片づけていくのを忘れたんじゃろう」

それからおじいさんとぼうやは家に帰りましたが、ぼうやはあのこわれた船の帆みたいなもやもやのことが、忘れられませんでした。
薪(まき)わりを手伝っている間も、お昼ごはんを食べている間も、あのうつくしい無数のビーズをたたえて、きらきらきらきら光っていた、クモ糸のレース編みのことが、頭からはなれなかったのです。
ぼうやは思い切って、おじいさんにおねだりしました。
「ねぇ、おじいさん。けさみたようなふしぎな、ほそいほそい糸で編んだ船の帆を、つくってよ。おねがいだから。ね、いつものようにじょうずに!」
いつものように、じょうずに、ですって?――
ええ、じつは、おじいさんは、飴細工(あめざいく)の職人だったのです。
よくねりこんだ飴を、空中ですぅーい、とのばし、じつにいろいろな形を、みるみるうちにつくっては、おじいさんはいつも、ぼうやにみせてくれるのでした。うさぎや、カラスや、キリンや、それはそれはいろいろな動物たち。それにお花やお人形も。
「ううむ。だが、あんなこまかくてかぼそい糸で編んだ船の帆をつくるのは、このわしとても、それはたいそう、むずかしいことじゃ」
おじいさんはそう言いながらも、もうかおをほころばしています。
ぼうやに何度もせがまれては、どうにも仕方ありません。
松葉杖(まつばづえ)につかまりながらも、よっこらしょと椅子から立ち上がりました。
そうして、テーブルの上の棚(たな)から、飴のどっさり入った壺(つぼ)をおろすと、中にきねをいれ、ゆっくりとまわしはじめました。
おじいさんは、たいそう時間をかけて飴をねると、二本の棒(ぼう)をつっこんで、ふいともちあげました。
そうして、そのまま棒のさきを、空中にときはなちました。

ひゅるるるる……
飴はほそいほそい糸をひきながら、まるでまほう使いのような、おじいさんの棒さばきで、こわれかかった船の帆を、いっきに宙になぞりました。
と、けさ見たのとそっくりな、ふしぎな黄金のレース編みを、またたく間に仕立ててしまいました。
「わぁすごいや。目がまわる!」
ぼうやがさけびました。
「きれいだよ! けさ見たのは銀の糸みたいだけど、これは金の糸だね、おじいさん」
「虹の光のビーズ玉こそないが、こうしてみると、これもなかなかきれいじゃのう。われながらなかなかの出来ばえじゃ」
おじいさんもにこにこしていいました。
「おじいさん。これ、森のあそこへ見せに行こうよ!」
ぼうやは言うと、またおじいさんの袖(そで)をひっぱってせがみました。

夕方になるとふたりは、あのうつくしいクモの巣のたわむ、森へと出かけました。そして森の小径をとおり、けさと同じハンの木劇場(げきじょう)の入口の前に立ちました。

おや?と、ぼうやは首をかしげました。
「ビーズ玉がどこかへ行っちゃった」
「ほぉ…そういえば、そうじゃのう」
おじいさんも、そっとつぶやきました。
「あそこだったよね。レース編み――もやもやは、たしかにかかっているけれど、朝みたいにキラキラかがやいてないよ、おじいさん」
「そうじゃな…。おそらくあれは朝露が、あちこちにやどっていたんだろう。いまはすっかり風に吹かれて、かわいて消えてしまったのじゃな」
おじいさんが腕組みして言いました。
「これじゃあ、ただのこわれたみじめな船の帆だ」
ぼうやはがっかりしました。
「いやいや、そんなことはないぞ。多少しぼんでしおれてはみえるが、今みてもなかなかの力作じゃ」
おじいさんは、あごひげをこすりながら、ぼうやに言って聞かせました。
「いったい、こんなていねいな編み仕事をしたクモの仕立て屋は、どこに住んでおるかのう」
おじいさんがそう言って、目を細めながら感心しておりますと、やぶの少し先から、ツリンツリンツリン、ささやかなベルの音がきこえました。
風になびいたシャジンの花が、小首をふって、鐘を鳴らしたのです。鐘の音は、こちらへおいで、こちらへおいで、とささやいていました。

「おじいさん。ほら、あそこだ!」
ぼうやはさけぶと、おじいさんの袖(そで)を引っ張って、小さな靴であわてて森の奥へと駆けて行きました。
おじいさんも、松葉杖(まつばづえ)をつきながら、よちよちした足どりで、坊やにつられてかけて行きました。
みると、森の中にとつぜんぽっかりと空いた草地の広場の奥に、「クモの仕立て屋」と、エビヅルのつるべの文字をはわせたクモの巣ののれんが、ツヅラフジのやぶの手前にかかっていました。

「おじいさん、ここだね」
ぼうやがはしゃいで言いました。
「おおここじゃ、ここじゃ。ちょっとおじゃましてみようかの」
おじいさんも言いました。
ふたりがそっとのれんをくぐりますと、

「いらっしゃい。クモの仕立て屋でござい。なんでも注文たまわります」
元気な声がかえってきました。

「けさがた、森の入口でたいそううつくしい船の帆を見かけたんじゃが、あれを編んだのは、おまえさんかね?」
おじいさんがたずねました。
クモは、つむざおの向こうから、ひょっこり顔を出すと、あわててこたえました。
「ああ。ええまあ…。――といってもあれは、こんな夕方にでもなりますと、まるで嵐に合ったあとの船みたいな〈ざんがい〉に、なってしまいましたでしょうけれど。――それでもあれは、なんとか私がひと晩かけて、いっしょうけんめいにおつくりしたものでございます」
クモの仕立て屋は、はずかしそうにうちあけました。
「じつは昨日、たくさんの注文がありまして…なにしろ天の冠(かんむり)に天の翼(つばさ)、そして光の網(あみ)のご注文を、一気に引き受けて、みながそれを持ちよってあそこのやぶに集まりましたの。それが、時のたつにつれて、きっとみんなひとつに合わさってしまったのですよ」
クモはそう言いおえると、ちょっともじもじしました。
それを聞いておじいさんは、思わず目をほそめました。
「そうでしたか…。いやじつは、わしもあのうつくしい、かしいだ帆掛け船をまねて、ひとつ飴細工(あめざいく)をつくったのじゃがな。もしよろしければ、あなたにプレゼントしましょう。あなたのよりはずっと小さいが…」
おじいさんはそう言いながら、まがった腰のうしろにかくしていた、うつくしい飴細工を、そっとクモの前にかざしました。
それを見ると、クモの仕立て屋は、たいそうおどろいて言いました。
「まぁなんてうつくしいこと! 私の仕立てものは銀の糸だけれど、これは黄金の糸のようですわね」
そうして、クリーム色した穂のたちならぶ、ツヅラフジのカウンターからはい出すと、おじいさんの方へおずおずと近寄って、よくよく見入りました。
「かぼそい一本一本をみるとちがいがわかりませんが、すこしはなれてみますと、かすかに黄金色(こがねいろ)に、かがやいておりますわ…。なんとうつくしい金の糸でしょう」
「いやいや。わしのはほんの一瞬、飴(あめ)を宙(ちゅう)に放りなげて、くるくるくるっとまわしてつくるもので、おまえさんのようにこつこつと時間をかけてしあげる、こうした手の込んだもののようには、いかないのじゃが」
おじいさんが、しらが頭をかいて言いました。
「そのかわりに、ほんの一瞬でしかつくれない、うつくしさがありますわ!」
クモはたいそう感激(かんげき)したようすでした。
「これを私にくださいますの」
「よかったら、おもてののれんの脇にでも添(そ)えてくだされ」
「まあうれしい。ではさっそく、店の看板(かんばん)にさせていただきますわ。すみませんが、のれんの横のすこし高いところに、そのうつくしい金色の飴細工をかけてくださいませんか?」クモはいいました。
それで、おじいさんとぼうやはさっそく店先に出ると、帆かけ船の紋章(もんしょう)のような飴細工を、クモの網(あみ)のれんの小脇(こわき)に飛び出していたエビヅルのつるべを切ってやり、そのヒモを、飴細工の穴にそっと通してやりますと、エビヅルの鉤(かぎ)のひとつに、みごとにひっかかりました。
レース編みののれんが風にたわむと、帆かけ船の飴細工も、いっしょになって揺れながら、それはそれはきらきらかがやいて、なんとうつくしかったことでしょう。
庭のシャジンも、うれしそうにツリンツリン、かぼそい首を振りながら、ふたたび鐘を鳴らしました。
と、どうでしょう。
チュピチュピチュピ、ジョリジョリジョリ、ヒー・ホー・キー。
どこからともなく、小鳥たちの声がきこえたとおもうと、それはもう森のあちこちから、おしゃべりさんたちが降りてきました。
ヒガラやコガラ、シジュウカラはもちろん、ルリビタキやクロツグミまでもが、森の奥からやってきました。
小鳥たちはもちろん、リス、うさぎ、かやねずみたちも、やぶのむこうからかけて来ました。そしてくちぐちに、はじめて見る金の紋章を、ほめたたえました。
てんとう虫たちは、コガネ虫までひきつれて、どこからともなく集まってきては、うれしそうにブンブン、あたりを飛び交いました。
いろんな羽根をしたチョウチョウもやってきて、マリオネットのみえない糸でつられるように、ひらひら飛び交い、おどりはじめました。
夕方の光を浴びながら、わたすげの精たちも、ブナのこずえの向こうから、ふうわりと舞い降りてきました。そして、あわ雪のダンスよろしく、たのしげに腰を振りながら、あたりをただよいはじめました。

こうして、みんなしてクモの仕立て屋の、店のまわりをとりまきながら、うれしそうにおどり、うたいました。

それは日暮れの、もうひとつのささやかな、森のおまつりとなったのでした。

| Rei八ヶ岳高原 | 13:43 | comments(0) | trackbacks(0) | | - | - |
子猫とたんぽぽ
黄色い羽根の 天のつかいが 舞い降りて
魔法の杖を ちょん、とふれると
まあるいお屋根がはじけとび
まっ白い パラソルさした 妖精たちが
ひとり、またひとり
種をたずさえ 旅立っていく
天のつかいの おつげにしたがい
風にのって とべよ! かの地へ
見知らぬ地へ…


「あ。黄色いチョウチョさん、またおつかいにきた!」
子猫のメヌはそうさけぶなり、いそいでかけ寄っていきました。メヌエットはお散歩が大好きで、チョウチョが大好き。みつけるとすぐに追いかけていくのです。

「あぁ。チョウチョさんたら、こわしちゃった。しろいボールのお屋根を! わあい、あたし見てよっと。綿毛のお屋根にあなが空いて、たんぽぽの精たちが 出てくるところ…」

「おねぼうさんたちを、起こして、旅立たせるのが、天のつかいの、わたしの役目なのです」 
ふと、声がしました。それはチョウチョでした。黄色いチョウチョはそう言いながら、おひげの杖でちょこんと、たんぽぽの綿毛のお屋根をつついて、なにやら合図しました。すると、あわく白んだドームのお屋根が、ほんのすこしこわれました。

ドームのなかではたんぽぽの妖精たちが、なかでうとうと眠りこけていました。茶色いちいさな種を、ひとつずつ、足にむすびつけたまま。そして、そんなたがいの足を、ドームの芯で組み寄せて、眠りについていたのです。が、チョウチョのつかいの合図にうながされて、ひとりひとり、ゆっくりとのびをして、ようやく起きあがりました。

「ああ、いい気持ちでしたこと!」
「もう旅に出なくてはならないのね、わたしたち」

たんぽぽの精たちは口々にそうつぶやきながら、ふわふわの綿毛のパラソルを、そっとふるわせ、風を待ちました。そしてここちよい風をつかまえると、たちまちふわりと身をあずけ、しろいパラソルをくるくるまわしながら、外の世界へ飛びだすのでした。

さて、子猫のメヌは、たんぽぽの精が風にのって飛び立つ瞬間を、じっと待ち受けていました。おひげをぴくぴく、ふるわせながら。息をひそめ、今か今かと…。
と、綿毛のパラソルがあつまってできた、すきまだらけの天球の屋根が、もこもこっ、と動いたと思うと、そのすきまのひとつがわれて、眠そうなたんぽぽの精がひとり、あくびしながらふうわりと背のびをし、身をもたげました。―――― と、ふいにそよ風が吹いて、またたくまに彼女をさらっていきました。

「ああ、まってよ。まってよ!」
メヌはあわててたんぽぽのあとを追いかけました。 
「どなたか、声をかけまして?」 
たんぽぽの綿毛の精は、おちついたようすで、しばらく行ったところでパラソルをすぼめると、ようよう降り立ち、しずかにうしろを振り向きました。
「まあ。こねこちゃん! おおきなお口をあけて…。わたしを食べる気?」 
たんぽぽの精は、すこしおどろいてみせると、こうたしなめるように、またすこし身がまえるように、言いました。
「そうじゃない。いっしょに行きたいだけ」 
メヌは長いしっぽをくねらせ、こたえました。たしかにあのふわふわの部分をみると、おもわずおしりをふりふり、飛びかかりたくなりましたが、じっとこらえて、なんだかあとを追ってみたくなったのです。

「ねえ、どこいくの?」
「知らないわ…」 たんぽぽの精は、しろいパラソルをゆっくりまわしながら、すましていいました。

「知らないところへ、いくの?」
「というより、自分のいく場所を、知らないのだわ」

「ついてって、いい?」 メヌは首をかしげて聞きました。
「どこへいくかもわからないのに? とんでもない場所かもしれないのよ」
「でも、ついていかれるだけ、ついていく」
「そう。どうぞご自由に…」
たんぽぽは、そっけなく応えたと思うと、もうそよぐ風に乗ってふんわりと宙に舞いあがりました。
「あたしも、舞いあがる、舞いあがる!」
メヌはさけびながら、どうしてあんなに軽がると風に乗ることができるのか、ふしぎに思いました。 
「どうやったら、舞いあがれる?」 

「そうねぇ・・。」たんぽぽの精は、しばらく考えて、
「ふわふわしたものの力を借りて、体をもちあげてみては?そして風をつかまえること」 そうこたえました。
「そっか。じゃ、そういうの持ってくる。待ってて!」 メヌはそういうと、いちもくさんにお家へもどっていきました。

たんぽぽの精は首を振って、やれやれ…仕方なさそうに綿毛のパラソルをすぼめると、クローバーの茂みに身をよせながら、子猫の返るのを待ちました。 
メヌはじきに戻って来ました。おかしなものを持って。―― みると、それは耳かきでした。棒の先には、たんぽぽの綿毛によく似た、しろくてまるい、ふわふわの風船がついています。

「あなたときたら…」 たんぽぽの精は、かすかに首をふりながら、あきれ顔でつぶやきました。 
「そんな小さいものが、あんたの重いからだをもちあげることができて? あなたのほうが、その白いお羽根より、よっぽど重いのじゃない?」 
「そうだなぁ…。」 
いいながらもメヌは、あきらめ切れずに、耳かきをしっぽの先で持ち上げながら、ピョンピョン飛び跳ねていきました。そして振り返ってさけびました。
「じゃ、それよりもっと大きなものを、持ってくるまで待っててね」
「しかたがないわね…」 肩をすくめて、たんぽぽの精は、いいました。メヌはいちもくさんに飛んでいきました。そしてまもなく戻って来ました。
こんどは、すきとおったビニール傘を、しっぽの先にまきつけながら、くるくる回してきたのです。
「コレ、まわるのよ。あんたのとおんなじ! 風だってはらむんだから!」
「そう。飛んでみたら? どこまで持ちあがるか…」 
たんぽぽの精が、くすくす笑ってけしかけました。メヌはけげんな顔をしながらも、長いしっぽの先に傘の柄をからませ、なんどもなんども地面をけって、飛びあがってはみましたけれど、ほんのかすかに持ち上がるだけで、すぐに着地してしまうのでした。メヌは、なんだかがっかりしました。

「ねぇ?思うのだけど、わたしについてくるのに、わたしとおなじように、浮かびあがらなければならないかしら…?」 
たんぽぽの精は、なだめるようなやさしい声で、こうつぶやきました。
「ふわふわのパラソルで風にのって行くことが、そんなにだいじ?」 
「ううん…。そうか、まねっこしなくてもいいのかな?」 
「こねこちゃん ―― そんなふうに自分も浮かびながら、私のあとをついてきて、ぬるぬるした沼地に降りたり、深い湖の上をさまよったり、とげだらけのイバラのトンネルをぬって走ったり、どこかのエントツのなかに落ちて、そのままひからびてしまったりしてもいいの?」
「え…?」 
メヌは、そのひとことに、あっけにとられて、だまってしまいました。
「風にのって、浮かんでいくのは、たしかにたのしいけれど、自分で着地するところを選べないのよ。さっきもいったけれど…それでもいいの?もちろん、悪いところにばかり行くわけではないけれど。でも運がよくなければ、わたしたち綿毛の精は、自分の運命(さだめ)をあきらめなければならないのよ」

……メヌはしばらくして、ようやく口を開きました。
「それじゃあたし、ただついて行くことにする! それでもし、あんたがへんなとこに落ちたら、あんたを助けてあげる。ほかの場所へうつしてあげるわ。だからいっしょに連れてってよ…。あたし、ふわふわ浮かんで風にのって、気持ちよさそうにどこでも自由に飛んでいけるのを、うらやましがっていたけど、ほんというとよく考えてなかった。あんたたちが自分の場所を、自分で決められないってこと。あたしなんか、お家でお昼寝するときも、お日さまの光の移ってくほうへ、あたしもいっしょに移っていって、気ままに居場所を変えるけど、あんたたちときたら、そうはいかないのね…」

「そうねぇ」 たんぽぽの精も、お空をみあげて言いました。
「もしむきを変えられるとしても、まあ、たまたまその時風が吹いて、私の体が運よくまた宙を舞ったときだけね…。それももし、風が止んで、もうくたびれたら、それでおしまい!…でも、あなたがいっしょに来てくれたら、すこしは心強いわ? もし私が悲しい場所に舞い降りたら、そっと運んでどこかへ移してちょうだいな」
「うん、きっと」 
メヌは元気にうなずきました。しっぽをピン、と持ち上げて。
「あたし、もうふわふわ、浮かばなくたっていいや…。とにかくあんたのあとをついていく!」

こうして子猫とたんぽぽの綿毛の精は、ふうわりふわり、たったかたったか、風の向くまま、風景のなかを進んでいきました。野原をかけまわり、土手をのぼり、こどもたちの野球場をこえ、川べりへ降りていきました。
やにわに風が吹きあがり、たんぽぽの精の背中をふっとさらっていきました。たんぽぽの綿毛のからだは、宙に舞い、川の方へとどんどん落ちていきます。
「あぁーっ。ちょっと待ってよ。どこへいくの」メヌはさけびました。そしてあわてて後ろ足のばねをいっぱいに使って飛び上がると、前足でひっしにたんぽぽの綿毛をつかみました。降りたところをたしかめると、メヌのからだはぎりぎりで岸辺のはしに着地していました。
「あぁあぶなかった」メヌはほっとしました。
「ありがとう、たすかったわ。川の中に落ちたら、花を咲かせられなかったものね」たんぽぽはほっとしてお礼をいいました。

さてそれからふたりは、風にまかせて土手をまたのぼり、下の畑へぐんぐん降りて、田畑のさかいのちいさな川を、ぶじに飛び越え、なんだかさっぷうけいな広場に出ました。
いったいここは、何なのでしょう?広場はあたり一面、金属をもやすような、おかしなにおいがたちこめていて、向こうには青白いけむりをもやもやはきだす煙突の姿がありました。あれた広場のまんなかには、空き缶がうず高くつまれていました。
ザザザー…またしても風が吹いて、たんぽぽの綿毛の背中をいきなりさらっていきました。そしてきゅうにやんだとおもうと、まあなんとしたことでしょう。空き缶のお山のてっぺんへ、たんぽぽをおきざりにしていったのです。
「ああもぅ、だめだよ。そんなところ」メヌはあわてて追いかけると、がちゃがちゃ空き缶の山をかけのぼり、ときどきずり落ちそうになりながら、ようようてっぺんへたどりつきました。そうして、つぎの風が吹いてたんぽぽをさらっていく前に、あわててたんぽぽの綿毛をぱくりと口にくわえました。
そしてタッタカタッタカ、空き缶の山をけとばしながらいっきにかけおりると、広場の奥の砂場へととっしんしていきました。そして、砂場のまん中までくると、ぺっと綿毛をはき出しました。
「しばらくここで、からだをかわかしてね」メヌがいいました。
「ありがとう、はこんでくれて。あんなさびついた缶のお山へ落ちても、かわいいお花を咲かせてあげられなかったわ」
たんぽぽの精がまたお礼をいいました。
「ほんとに、どこへ落ちていくかわからないよね」メヌは砂の上でほっと一息つきながら、ひたいのあせをぬぐいました。
「ところで、ここはどこかしら…」たんぽぽの精が、せなかに日を浴びながら、すこしねむたげにいいました。
「さっきより、へんなにおいはしないね。ここがお砂場だから、もしかして公園じゃない?」
ふと向こうを見ると、だれもいないブランコが、かすかにゆれています。だれかが降りたばかりのようです。
「あれ。あそこにゾウさんのすべり台がある!」メヌがさけびました。メヌの大好きなものです。さけびおわるかおわらぬうち、メヌはわき目もふらず、一気にかけ出しました。たんぽぽの綿毛も、あわててメヌのしっぽにつかまりました。
メヌがすべり台をかけ上がると、たんぽぽの綿毛はメヌのしっぽにもぐりこみ、一緒にあがりました。そしてメヌがすべり降りるときには、なんとかうまいぐあいに風にのり、しっぽをはなれ、ふんわり浮かんで追いかけました。メヌは何べんとなくそれをくり返しました。
たんぽぽのほうは、そのたびに、メヌのいきおいに舞いあげられ、いつしか はぁはぁ息を切らしていました。
「あぁつかれた。あなたといると、はらはらするわ…ときどきおしつぶされそうになるし。もう…くたびれたわ」たんぽぽの精はうちしおれていいました。


やがてふたりは公園をはなれ、畑をぬけて、うすぐらい森のなかへ入っていきました。あたりが暗くなってくると、さすがにこころぼそくなり、なんだかどっとつかれてきました。
うっそうとした茂みのなかに、かしいだ、みすぼらしい一軒のコテージが、忘れ去られたように立っていました。そのうす暗い、じめじめした軒下に、たんぽぽの綿毛の精がふらりと舞い落ちた時、メヌの心はかすかにわななきました。うらみちのほうから一匹のおおきな猟犬が、はげしく吠えたてるのが聞こえてきました。犬の声はそれからもうずっととまりません。じぶんの声が木立へとこだまするのがきこえると、そのひびきにさそわれて、いっそうはげしく吠えつづけます。
メヌは耳をおおいたくなりましたけれど、たんぽぽはもう、暗くしめったその日陰に、じっとうずくまったままになりました。すっかりつかれはてているのです。
メヌは泣きたくなりました。無茶をいってついて来たのを、こうかいしました。が、ふと思い立つと、勇気をふるって、吠えたてる犬のほうをいっしょうけんめい、にらみつけながら、ぐったりしたたんぽぽの綿毛を両手ですくって、自分のお口に入れました。
「もしもできるなら、生まれたところへかえりたいわ…」メヌのお口の中で、たんぽぽの精がそっとつぶやく声が、きこえたような気がします。
「はらっぱへ行こう」
メヌはおヒゲをピンピンにはりつめながら、全速力で森をぬけ、田んぼをぬけ、公園をぬけ、土手を横切って、やがてなつかしい原っぱにたどりつきました―――― はじめにふたりでおしゃべりをかわした、あのあかるい原っぱに。 

草たちが、ざわざわなみのようにゆらめいています。草のなみは、おひさまの光を体いっぱいに浴びて、においたつような目に見えない湯気をゆっくりとたちのぼらせては、たんぽぽのじゅうたんであしもとをすっかり黄色くそめながら、とおくまでつづいていました。

メヌは、そのなかでもいっとうまぶしい黄色い光のまんなかに、小さな小さなあなをほると、綿毛の精をそっとうずめて、かえりました。

| Rei八ヶ岳高原 | 11:55 | comments(0) | trackbacks(0) | | - | - |
森のおとしもの
きつねのぼうやが、たったひとりで 森の夜みちを歩いていました。
うつむいたまま、しきりにひとりごちながら。

「ええと、あれはこの辺だっけ? きのう ぼくが見つけたもの。
きのう見つけたものはどこ?」 

フクロウが一羽、かばの木のウロにとまっていました。
おおきなお目目を半分閉じて、きつねのようすを見ていました。
きつねのぼうやは、フクロウにたずねました。

「もしもし、おじさん。あれはどこ?」
「あれ、とはなんじゃな?」
フクロウがききかえしました。
「ええとね、ぼくがきのう見つけたもの」
「ホッホー。一体何を見つけたんじゃね?」
フクロウは目をまるくしてたずねました。
「きらきら光る落としもの」
「はてさて、それは金貨かね?」
フクロウはいいました。
「金貨は、きらきら光るもの?」
きつねのぼうやがたずねました。
「あぁもちろんさ。そいつは丸くて、そしてちょっと重いんだ」
「そうか。それじゃ、あいつは金貨だ。きっと金貨にちがいないや」
きつねのぼうやは、はしゃぎました。

「だが、金貨なんてこの辺りに落ちてはいなかったがね…」
フクロウは残念そうにそういって、ホー とひとつためいきをつくと、ふたたび目を閉じてしまいました。
「わかったよ、おじさん。ありがとう」
きつねのぼうやはお礼をいって、またとぼとぼ歩いていきました。

少し行くと、クルミの木をするすると降りるリスに合いました。

「もしもしおばさん。あれを知らない? ぼくがきのう、見つけたもの」
「はてさて。いったい何でしょう?」
「ええっと、それが分からない。だけどとにかくきらきら光る、だれかのだいじなおとしもの」
「きらきら光るだって? そうかい。それじゃぁそれは、きっと宝石」
リスは目をかがやかせました。
「クルミの味するルビー! 松の実の味する真珠!」
リスは胸のまえで手を組み、夜空を見あげていいました。
「あら。だけど、宝石なんて、このあたりにはひとつも落ちていなかったわ?」 
それをきくと、きつねのぼうやは、がっかりしてつぶやきました。
「そう…わかったよ、ありがとう、おばさん」
きつねのぼうやはお礼をいって、またとぼとぼと歩いていきました。

森の奥深い山あいにはいると、ヒゲを生やした一頭のカモシカが、しげみを行き来していました。もぞもぞ草をはんでいます。

「もしもしおじいさん。あなたは知らない? ぼくがきのう見つけたおとしもの」
けれども、カモシカのおじいさんは、耳が遠くてきこえません。
「おじいさん! ねえねえ知らない? ぼくの見つけたおとしもの!」
きつねはちょっとどなりました。
「おや! こんばんは、ちいさいぼうや。どうしたんだね、こんな夜ふけに?」
カモシカは、ほそながい顔をあげました。
「ぼくがみつけた、だれかの大事な落としもの…」
「え? ほう、おとしもの。おとしものがどうしたって?」
「おじいさん知らない? 見なかった?」 
「いやはや。さてね? いったいそれは、どんなものだい?」
「きらきら光る、きれいなの」
「え? キラキラ光る、とな? うぅん…。キラキラと光るといえば、それはもう、クリスマスの金と銀のかざりもののあかりだよ。あちこちで点っては消え、点っては消え…。それがサンタクロースをそりに乗せて走る、わたしたちのしんせきを、じつにここちよくさそうんだ。」 ―― しんせきというのは、トナカイのことでした。
「しかしだね…」
カモシカのおじいさんは、考え込むと、しゃがれた声でいいました。
「いまはクリスマスの時期じゃぁない、あと半年もあるからな。それにそんなキラキラしたもの、この森の中なんぞで見おぼえないがね…」
「そうですか。どうもありがとう」
きつねはしょんぼりして、またとぼとぼ歩いていきました。

いつしか、川べりにさしかかりました。ふとったカワウソのおばさんが、きつねのぼうやの目の前を、よちよち走っていきました。

「もしもし、おばさん」
きつねのぼうやが呼びとめました。
「なんだね? あたしゃいそがしいのよ、用事があるなら、はやくお言い」
「きらきら光る、おとしもの。だれかのおとしもの、見なかった?」
「きらきら光る、おとしものだって? さてね。だれのものだかわからない、おとしもののことなんか、こういそがしくっちゃ、おぼえちゃいないけど」
カワウソのおばさんはいいながら、あごに指をあてました。
「だけども、それはいったいどういう風に、光るものだったのかい?」
きつねのぼうやはまぶしそうに、目をほそめながらいいました。
「それはたいそううつくしく、きらきら、きらきら」
「まあ…。」
カワウソのおばさんは、ふと空をみあげました。
「こう見えてもね。わたしゃけっこう、おしゃれなんだよ」
おばさんは目を見はると、つんとはった胸を指さして、いいました。
「ここにつける金ボタン、まえからほしいと思っていたのさ。もしも、それが金ボタンなら、どんなにかあたしに似合うだろう。…だけどそんな高価なもの、この森になんておちてやしないものね。そう、おちてなんかいやしないのさ」
カワウソのおばさんは、そういって首をふり、ビロードのようなしっぽをひるがえすと、また湖の方へと、かけ出していきました。
「わかったよ。ありがとう、ひきとめてごめんなさい」

きつねのぼうやはあきらめて、とうとういま来た道を、引き返すことにしました。そして、すっかりしょげたしっぽをふるわせ、歩き出したその時です。
サラサラサラ……ふと、森の木々の葉がざわめきだちました。
おや…。あれはなんでしょう。何か黄金色の光がチラチラ、ぼうやの行く手にゆれているではありませんか。
「おかしいな。さっきとおったばかりの道なのに。こんなチラチラするもの、あったっけ?」
きつねのぼうやは首をかしげ、おもわず目をみはりました。
そう、道のまん中をくりぬいた、小さい水たまりのなかを、そよそよそよぐ風にふるえ、何かがうごめいています。……
見ると、ちいさな水たまりに、あわい金色の光の束が、木々の葉をすかして、そぉっと射し込んでいるのでした。
きつねのぼうやは、そのふしぎな光の束を、空へ空へと、たどっていきました…。
と、それは夜のやみにこうこうと光る、お月さまへととどきました。
キラキラ光る、おとしもの――それは、水たまりに映る、月あかりの精たちだったのです。

「ねえきみたち、この水たまりで何をしてるの?」
きつねのぼうやがたずねました。
{水浴びしているのよ}
月あかりの精たちは、いっせいにこたえました。
そのよくひびく声は、キラキラと、水たまりいちめんにこだまして、黄金の光をぶつけあいながら、やがて幾重もの輪をひろげていきました。

それは、お月さまが、ご自分の使いを、光の束のすべり台をつたわせ、こうして森の水浴び場に降ろして、遊ばせていたのでした。

「ぼくはてっきり、だれか森に住んでるひとの、おとしものだと思っていたよ」
きつねのぼうやは笑っていいました。そしてそっとたずねました。
「ねぇもし、ぼくがきみたちをひろったら、きみたちはお月さまへ、かえれなくなってしまうの?」
{拾ってみたいなら拾ってごらん?}
月あかりの精たちは、わらいはじけていいました。
{わたしたちは逃げるのが上手なの。いくらすくっても、つかまらないわ}
また別の声がいいました。
{私たちのかがやくからだは、ここにいても、お月さまのもとへ、いつでもあっという間にかえれるのよ}
「ほんと?」
きつねはおどろきながら、ちょっとくやしがりました。
「じゃ、つかまえてみようっと!」
きつねのぼうやは、手をのばしました。
―― チャポン・・・……水たまりに手をいれると ――
月あかりの精たちは、あっという間に飛びちって、ちりぢりに分かれると、楽しそうに笑いました。そしてわぁぁん… その声と光は、しばらくの間ずっと、こだましていました。森ぢゅうに。耳の中に。――
そうしていつしか、またもとどおり、水にうつるお月さまの姿に、ゆらゆらかえっているのでした。……

水たまりをふるわせていた風は、いまはもうすっかり止んでいました。辺りも、しんと静まりかえっています……。

(ほんとだ……さよなら、妖精さんたち)―― きつねのぼうやはそう、ひとりごちました。水たまりの奥の奥、お月さまの姿をのぞきこみながら。

ホーホー ―― フクロウの声が響いています…。

「ぼく、もう かえらなくちゃ!」

きつねのぼうやは、あわてて身をおこすと、ほっとひとつためいきをついて、今来た夜道を、ひきかえしていきました。
水たまりのお月さまは、もうキラキラとおしゃべりしなくなったけれど、夜空にたかく浮かんでいる、もうひとつのお月さまは、いつまでもいつまでも、きつねのぼうやを追っかけて、転ばないよう夜道を照らし、明かりをともしてくれていました。・・・

| Rei八ヶ岳高原 | 15:45 | comments(2) | trackbacks(0) | | - | - |
天使さまのランプ

くろい ちいさな虫が ひとり
さまよっていました

そよそよ 風の吹く晩に
月夜の晩に ふらふらと
あたりをさまよい
おどっていました ……

    * * *

やみのなかに、ほんのりと明るい、ともしびがみえました。
それは、村と町とのさかいに立つ、外灯でした。
ろうそくの炎が、灰色の鉄格子(てうごうし)のなかで、ちらちらとゆらめいています。

きれいだなぁ。あかるいなぁ。あんなランプ、ぼくもほしいなぁ。
小さな虫はいいました。けれども、そんなことをいっても、どうにもしかたがありません。

虫はまた、夜空をふらふら、どこかへ飛んでいきました。


町のはずれに来ました。

ちいさなおうちでしたが、お部屋の中には、あかりがともっていました。
そのあかりの上には、教会の窓にも似た、ガラスの傘がかぶさっていて、それがまるで時のとまりかけたメリーゴーランドのように、部屋ぢゅうをほんのりと、赤・青・黄・緑、さまざまな色で、ゆわんゆわん照らしていました。
部屋のなかには、子供たちの影が、はしゃぎ声といっしょに、ちらついていました。

きれいだなぁ。ゆめのような世界だなぁ。ぼくもあの傘の中へはいってみたいな。
小さな虫はいいました。けれども、そんなことをいっても、どうにもしかたがありません。

虫はまた、ぴったりとつけていた黒いからだを、窓からはがして、よそへ飛んでいきました。


大通りにさしかかりました。

クリスマスでもないのに、無数につらなるまぼろしの壺(つぼ)のような、青い光と赤い光が、交互に街を照らし出しながら、おしゃべりしていました。
あの女の人には、あかちゃんがうまれたんですって。
あの犬は、荷馬車にひかれたんですって。
あの男の人は、さいふを落として、さがしまわっているようだね。
あのステッキをついたおじいさんは、今夜もお酒をのみすぎた…
などと。

そのむらがる光とおしゃべりは、いつまでもどこまでも、つづいていくようにみえました。
こんな夜中だというのに、ひとびとはまだ、通りを行き来しています。そうして時々、どよめくような笑いや、けんかをする声、乾杯(かんぱい)のグラスの音、女のひとのひめい、馬のひづめの音などが聞こえてきます。

こんな夜でも、きれいなあやしい光がむらがっている。きっとねむることがないのだろうな。虫は思いました。
それにしてもきれいだなぁ。ぼくもあの中のひとつになりたいよ。
小さな虫はいいました。けれども、そんなことをいっても、どうにもしかたがありません。

虫はまた、どこかへ飛んでいきました。
こんどはもうすこし、空気のきれいなところがいいかしら…などとひとりごちながら。


海辺に近づきました。

ザザザー…さざ波が、ざわめきわたっています。
背の高い白い灯台が、にょっきりと、岸辺からのっぽのからだをもたげて、ゆっくりゆっくり、ななめの光をまわしながら、あれた海でもまよわぬよう、ちいさな舟がわたっていくのを、照らし出してやっていました。

やくにたつ、すばらしい光。ぼくもやくにたつ光を、だれかにともしてあげたいなぁ。
それになんだか、きれいだもの。ぼくもあんなのっぽの頭のてっぺんから、海に射しこむりっぱな光になりたいよ。
小さな虫はいいました。けれども、そんなことをいっても、どうにもしかたがありません。

飛び交うカモメたちに食べられないよう、ちいさな虫はいそいで、海辺をはなれていきました。


さいごに、山の方へ入っていきました。

森をつたって、いつものように川べりにちかづきました。

いつもここで、しばらくゆっくりしていくのです。
そういえば、ここで生まれたような気もします。
チラチラときらめきゆれるふしぎな光が、いちばんすばしこく、おいかけっこをしている所にやってきました。
それはじつにせわしく、しきりにはなれたり重なったりしながら、あそんでいます。

なんてやつらだ。すこしもじっとしていない…。
でもなんてきれいなんだろう。小さな虫はこれに出会うたび、いつもそう思うのでした。

辺り一面に、くすぐったい水の音がしています。

ふと見上げると、きれいなお月さまが、青じろい光をこうこうと、夜空にはなっていました。

それはもうあと数日で満月になろうとする、すこし欠けた月でした。

「私のひかりが、ちいさな川面に映って、おじゃましています」
ふいに、お月さまがよびとめました。
虫はすこしおどろいてから、
「お月さま、こんばんは!」
ていねいにあいさつしました。
「ぼくもあなたのように、こんなうつくしい光をからだからはなって、まわりを照らしてみたいです」
小さな虫はいいました。


ふと、お月さまがけげんそうな顔をしました。


が、小さな虫はそれに気づきませんでした。

「さあ。こう言っていてもしかたがないし、なんだかねむくなってきたから、そろそろお宿へかえろう」
小さな虫はつぶやきました。
「どこかにいいお宿はないかな」
くろい小さな虫は、しばらくの間考えながら、あちこち気にして飛びまわりました。

 

花たちはたいてい、夜になるとはなびらを閉ざしてしまいます。そのほんのすこしまえに、からだを入れて休ませてもらうのが、なにか心地よいのでした。

黒い虫は、ランプの形をした花たちが、とくにお気に入りでした。

すこし行くと、おだまきの花がありました。

「やぁこんにちは。とめてくれる?」
「空いていますわ。ようこそ」
おだまきの花は、プロペラみたいな花びらの、まんなかあたりの五枚が、ちょうど黄色い壺のようにのびていて、奥にもぐってぐっすり寝るには、いい場所のようです。
「ふぅ。やっとひと息つけるよ」
くろい虫は、やんわりと黄色い花びらのなかに、もぐり込みながら言いました。


「ねえ?——あのう、虫さん。知っている?」
しばらくすると、おだまきの花が、はなしかけました。
「何をだい?」
虫がききました。
「森の妖精がこんなしらせを送ってきたの。あなたはもう、ご存じかと思ったけれど」
「知らない。どんなしらせ?」
「こういうの。
『満月の夜にまけない、うつくしいランプをさがしています。あなたのランプをみせてくださいませんか? この森ぢゅうでいちばんきれいなランプがみつかりますよう、待っています。お月さまより。』 って」
おだまきの花が、しらせをよみ聞かせました。

「ふぅん。」くろい虫は、首をかしげました。
「お月さまは、その光があんなにうつくしいのに、それにまけない、森の中のきれいなランプをさがしているのかい?」
そう言うと、虫はなんだか不思議がりました。
「そういわれれば、たしかにそうね。でもあなたが私のおうちに泊まると、まるでランプがともったようにとてもきれいだわ」
おだまきがいいました。

「あんまりすてきでもったいないので、私はめずらしく、まだ花びらを閉ざさずに、まるでランプの花のような心地で、こうして咲いているのよ」
「いったいきみはなにを言っているの?」
小さな虫はとてもおどろいて、ききかえしました。
「まぁ。へんかしら。あなたはそう思わないの?」
おだまきがたずねました。
「ぼくはいままで、きれいなきれいな光をさがして、うらやましがって飛んでいたくらいなんだよ。街へ行ったり、海へ行ったり…。そしてやっと帰ってきたんだ。もうねむいよ。寝かしておくれ」
くろい小さな虫は、だだっこみたいにそう言うと、すやすや眠ってしまいました。

おだまきは、しかたなさそうに、黒い小さな虫を花びらにつつんで、一晩じっとしてやりました...。

さて次の日の夜でした。

おだまきの花に、とめてくれたお礼を告げると、
小さな黒い虫はまた、いろいろな所へ出かけ、いろんな灯や光を見てはあこがれて、

やがてまたしかたなく、森へもどって来ました。

しばらく輪をえがいて飛びながら、つぶやきました。
「あぁつかれた。今夜はどんな宿にとまろうかな」
「空いていますよ」
だれかの声がしました。

みると、それはツリガネソウでした。
「やぁ。ここはどれもお部屋がちいさいけれど、いったい何階だてなんだい? じつにかわいいすみれ色の部屋をいくつも、かしてくれるんだね」
小さな虫がいいますと、ツリガネソウは、どれでも気に入ったのをお選びなさい、とすべての部屋をチリチリゆらして、さそいました。
「ふむふむ。じゃぁいちばん、てっぺんのに」
小さな虫がごそごそもぐり込むと、ツリガネソウはさっそくたずねました。
「ねぇ。あなたはもう知っている? 森の妖精がくばってまわる、しらせのこと」
「どんなのだい?」
虫がききました。
「こういうのよ。
『満月の夜にまけない、うつくしいランプをさがしています。あなたのランプをみせてくださいませんか? この森ぢゅうでいちばんきれいなランプがみつかりますよう、待っています。お月さまより。』 って」
おだまきの花がそうしたように、ツリガネソウもまた、同じしらせを、くろい虫によみ聞かせました。

「ふぅん...。お月さまは、ごじぶんの光があんなにうつくしいのに、なんだってそれにまけない、森の中のきれいなランプなぞを、さがしたがるのかな?」
小さな虫は、今夜も不思議がりました。
「そうねぇ…。だけどあなたが、私のちいさなお部屋に泊まると、とてもきれいよ。お月さまにだってまけないくらいかもしれないわ!」
「きみはなにを言っているの?」
小さな虫はひどくおどろいて、さけびました。
「あら。ご自分でそう思わないの?」
こんどはツリガネソウが、おどろいてききかえしました。
「だってぼくはいままで、きれいな光をさがして、うらやましがって飛んでいたんだよ。街へ行ったり、海へ行ったり…。そして今日もやっと、帰ってきたんだ。ランプはぼくの頭のなかだけでたくさんさ。すっかり飛びつかれてね、もうねむいよ。寝かしておくれ」
くろい小さな虫は、だだっこみたいにそう言うと、今夜もすやすや眠ってしまいました。

その次の日の夜でした。

小さな虫はまた、いろいろな所へ出かけ、いろんな灯や光を見てはあこがれて、しかたなく森へもどって来ました。
「ふう。今夜はどこの宿に泊まろうか」
「空いていますよ。よろしかったら、およりなさい」
だれかが言いました。

それは、キキョウの花でした。
「おお、これはありがたい!」
小さな虫は思いました。まんなかのしべにかくれると、ちょっとふわふわして、じつにいい夢み心地だろうと、思えたのです。
「ありがとう。ではえんりょなく」
小さな虫がさっそくもぐり込むと、ききょうがそっと、ささやきました。
「ねぇ。知っていらして? 森の妖精がこんなしらせを送ってきましたの。
『満月の夜にまけない、うつくしいランプをさがしています。あなたのランプをみせてくださいませんか? この森ぢゅうでいちばんきれいなランプがみつかりますよう、待っています。お月さまより。』 って」
タンポポの綿毛は、よみあげました。

「またその話かい。」
小さな虫はあきれました。
「なんだってお月さまは、その光があんなにうつくしいのに、それにまけない、森の中のきれいなランプを、さがしたりなどするんだろう?」
「まぁ…。けれど、あなたが私のおうちに泊まると、とてもきれいに思いますよ。外からながめたわけではないけれど、きっとそうにちがいありません」
「やれやれ。どこがきれいなんだ? ぼくはいままで、きれいなランプやきれいな光をさがして、うらやましがって飛んでいたくらいなんだよ。街へ行ったり、海へ行ったり…。そしてやっと帰ってきたんだ。もうランプはたくさん。ねむいんです。寝かしてください」
くろい小さな虫は、だだっこみたいにそう言うと、今夜もすやすや眠ってしまいました。

そのまた次の日の夜でした。

今夜も、小さな虫はまた、いろいろな所へ出かけ、いろんな灯や光を見てはあこがれて、しかたなく森へもどって来ました。

「ああつかれた。もしもし。空いていますか」
「空いていますよ、どうぞいらっしゃいな」

今夜のお宿は、ホタルブクロでした。
すこし大きめの、いくらか先のすぼんだふくろの中は、ホテルのようにゆったりとしています。なんてぜいたくな居心地でしょう。
「では、おじゃまします」
小さな虫は、すこしあらたまると、おずおず入っていきました。
でも、中はひろくて、じつにのびのびできます。くろい小さな虫は、思い切りからだをのばして、あくびをし、休みました。

しばらくすると、ホタルブクロがささやきかけました。
「知っていますか。森の妖精がこんなしらせを送ってきました。
『満月の夜にまけない、うつくしいランプをさがしています。あなたのランプをみせてくださいませんか? この森ぢゅうでいちばんきれいなランプがみつかりますよう、待っています。お月さまより。』」

「その話は、いろいろなところでききました」
小さな虫が、ねむい目をこすりこすり、いいました。
その口調は、すこしいらいらしていました。

「ぼくにはお月さまが、ご自分の光があんなにうつくしいというのに、それにまけない、森の中のきれいなランプをさがしたりする、その気持ちがわかりません」
「まあ! そうですの?… でもあなたは、私のおうちに泊まると、とてもきれいなのですよ」
「きれいって、どういうことでしょう?」
くろい虫は、首をふりました。
「ぼくはいままで、きれいなランプやきれいな光をさがして、うらやましがって飛んでいたくらいなのです。街へ行ったり、海へ行ったり…。そしてやっと帰ってきたのです。うらやましがるのはやめて、もう寝たいです。寝かしてくださいな」
くろい小さな虫が、目を閉じながら、すこし泣き声になってそういうと、ホタルブクロがいいました。
「あなたはお気づきでないのですか? あなたのからだから、ほんのりと、それはうつくしいあかりがともっているのを」
虫はとつぜん、目を見はりました。
「ぼくのからだが光っているって?」
くろい小さな虫は、だれにともなく、ききました。
「おしりが、うつくしいみどりいろに、光っています。あなたはホタルなのですから、それがあたりまえなのですよ。」
ホタルブクロがこたえてやりました。
「やあ、ちっとも知らなかった!」
ホタルは、思わず自分のからだをふり返りました。
おしりですから、よく見えませんでしたけれど、なるほど言われてみれば、なにやらやわらかなあかりが、ともっているようにみえました。

今まで、くろい小さな虫は、自分よりつよい光のもとへばかり出かけていて、自分のかすかな光に、すこしも気づきませんでした。
でも、森のお花たちはほめてくれたのです。

ホタルは、部屋からそっと出てくると、ふと飛び立って、高いたかい空を見上げ、お月さまをよびました。
「お月さま。こんばんは!」

今夜は満月でした。

「まあ。いつかのホタルさん」
すこしすると、すっかりまんまるになったうつくしいお月さまが、夜空のうえからこたえました。
「森のしらせをききました。ちょっと、見ていてください」
ホタルはさけびました。
そうして、もういちどいそいでホタルブクロの中にもぐり込むと、それはそれは美しい、薄みどり色のほのかなあかりを、おしりから放ってみせました。

やすらぐようなそのあかりは、ほたるぶくろの赤むらさきの花びらを透かして、夜の闇に浮かびあがり、なんともいえずやんわりとした光の輪を、あたりに照らし出しました……。

「まあ。なんてかわいらしいこと!」
お月さまは、高いたかい夜空の上から、ためいきまじりに言いました。
「小さいけれど、よくみえますわ。あれはまるで、天使さまのランプ。このわたくしの光にもちっともまけない、うつくしくてやさしい、天使さまの光だわ?」
お月さまは、ほほえんでいます。

この光景をまえに、オダマキや、ツリガネソウ、キキョウの花たちも、みんなちいさくゆれながら、にこにこわらっていました。

お月さまの声が、とおい夜空に響きわたりながら、ホタルのもとへと降りてきました。
それは、こう言っていました。
「きっと、この森のあちこちには、天使さまがむかしから宿っていらっしゃるのよ。だから、あなたを泊めてくれる、この森のお花たちはみな、あなたのランプで、天使さまのランプでもあるのね…」

ほんのりすけた、ホタルブクロの花びらの中で、ホタルはちょっとはずかしそうに、おしりのあかりをつけたりけしたりしながら、こたえました。

「みんなは大事な、ぼくのお宿だけれど、ぼくのあかりが、きれいなお花たちを照らしていて、お月さまにもほめられるような、ランプになっているなんて。こんなにうれしいことはありません。お花たち、いつもありがとう。これからもよろしくおねがいします」

ホタルはそう、夜空にむかってさけびました。

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